相続財産を譲渡した場合の取得費の特例と不動産鑑定
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(取得費加算の特例)」
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例は、相続または遺贈により取得した財産(不動産、株式など)を一定期間内に売却した際に、支払った相続税の一部を取得費に加算することで譲渡所得税を軽減する制度です。この特例は、相続税と譲渡所得税の二重課税を緩和するために設けられています。
適用要件
以下の3つの条件をすべて満たす必要があります:
1. 相続または遺贈により財産を取得したこと:相続税の計算対象となる贈与(相続時精算課税制度など)も含みます。
2. 相続税が課税されていること:財産を取得した人が相続税を納めている必要があります。
3. 譲渡の期限:相続開始日の翌日から相続税の申告期限(通常、相続開始から10か月)の翌日以後3年以内(実質的に相続開始から3年10か月以内)に財産を譲渡すること。
譲渡所得の計算
通常、譲渡所得は以下の式で計算されます:
譲渡所得 = 譲渡収入金額 – (取得費 + 譲渡費用) – 特別控除額
取得費加算の特例を適用すると、取得費に上記の相続税額が加算されるため、譲渡所得が減少し、結果として譲渡所得税が軽減されます。
「不動産鑑定との関連」
相続財産の譲渡において、不動産鑑定が関わるケースは主に以下の通りです。
(1) 取得費が不明な場合の推定
相続した不動産の取得費は、被相続人が購入した時の購入代金や手数料を基に計算しますが、古い不動産の場合、売買契約書や領収書が紛失していることが多く、取得費が不明になることがあります。この場合、以下のいずれかの方法で取得費を決定します:
• 概算取得費:譲渡収入金額の5%を取得費とする方法(国税庁No.3270)。この場合、登記費用などは加算できません。
• 不動産鑑定による推定:不動産鑑定士に依頼し、被相続人が購入した当時の不動産の価格を合理的に算出する方法。過去の路線価、登記簿謄本の情報、近隣の取引事例、当時のチラシやパンフレットなどを基に鑑定士が過去の市場環境や経済状況を考慮して評価額を算出します。この方法は、概算取得費(5%)よりも高額な取得費を計上できる可能性があり、譲渡所得税を大幅に軽減できる場合があります。ただし、税務署に合理性を認められるためには、鑑定評価の根拠を明確にする「理論武装」が必要です。
注意点
• 税務署との交渉:鑑定評価額が税務署に認められるかは、鑑定の合理性や根拠の強さに依存します。税務署との交渉が必要になる場合もあり、税理士のサポートが有効です。
• 費用対効果:不動産鑑定には費用(数十万円程度)がかかるため、譲渡所得の規模や節税効果を考慮して依頼を判断する必要があります。
• 裁判リスク:鑑定評価が税務署に認められない場合、税務訴訟に発展する可能性もあります。
取得費を5%にしてしまうと、譲渡した際に明らかに損をする場合がありますので、
そういった場合は不動産鑑定評価等を取ることも考慮されてはいかがでしょうか。